司法試験の受験勉強をしていると、「どんな勉強法が良いのだろう?」と悩まれるかもしれません。
本記事では、私が愛用した基本書の紹介を中心として、司法試験に合格するための勉強法を解説します。
本記事は超主観的な意見であり、普遍的・効果的な勉強法を紹介するわけではありません。また、司法試験を受験してから相当時間が経過しており、現在の司法試験の傾向等は全く分かりません。
本記事は自己責任でご利用ください。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
Contents
1. はじめに:経歴・司法試験の成績
司法試験の合格ルートや結果には様々な形があります。本記事をお読みいただく前提として、私の経歴や司法試験の成績をご紹介します。
1.-(1) 基本は大学・ロースクールの授業のみ
私は、京都大学法学部→京都大学ロースクール経由で司法試験に合格しました。大学・ロースクールの授業はきちんと出ていましたが、それ以外は特筆するべきことはしていません。
- 予備試験は制度がなかった時代なので分かりません
- また、旧司法試験の勉強は一切していません
- 予備校は通っておらず、模試も受けてません
1.-(2) 司法試験の合格順位82位(短答401位・論文88位)
司法試験は1回目の受験で合格し、合格順位は総合82位であり、ぎりぎり二桁合格でした。結果からみると相当程度は信頼できる勉強法を実践できたのではないかと思います。
刑事系・公法系は平凡な成績でしたが、私法系科目が50番台前半であり、このため総合順位は大幅に上がっています。この点は後述する受験戦略にもかかわるので覚えておいてください。
2. 司法試験の勉強法(総論)
本記事は各分野ごとにおすすめの基本書を紹介するものですが、一応司法試験の勉強法について総論的な内容も説明しておきます。
2.-(1) 受験勉強の必勝法:得点差がつく科目が存在する
受験勉強は基本的に複数科目の試験があります。そして、合否は各科目の総合計点で決まります。従って、どの科目で点数を取っても(足切りがなければ)、合格することができます。
この当たり前の点をどれだけ意識的に勉強法の戦略に持ち込めるかで合格の難易度は大きく変わると思います。
- 各科目の点数は同一の評価をされること(難易度に左右されない)
- 他の受験生より相対的に優位であれば合格できること
さらに過去何年間の司法試験の結果を調べると、合格者の点数分布が幅広いものと合格者の点数分布が偏っているものがあることが分かります。
すなわち、ある科目は全国1位になれば大量の得点差が得られるのに対し、ほかの科目では全国1位も最下位もさほど点数差がないことがあるのです。
2.-(2) 私の戦略:民法・商法・刑訴法で上位になる
私が司法試験を受験した当時だと試験科目ごとに以下のような特徴がありました。
- 私法系科目 点数差がつきやすい
- 刑事系科目 普通
- 公法系科目 点数差がつきにくい
そこで、私は民法・商法・刑訴法で上位に立って他の受験生と点数差をつけることを戦略として考えていました。民訴法を外したのは、ロースクールに入ってから勉強を始めた私は、旧試受験経験がある方と比べて苦手だったからです(既判力とか訴訟物とかよく分からないレベル)。
刑訴法に力を入れようと思ったのは、酒巻匡教授の授業が好きだったからです。
正直言うと、さも戦略のように語ってますが、半分ぐらいは私法実体法と刑訴法が好きだったからです…笑
好きな科目の勉強をするのが一番だと思いますが、好きな科目=得点差がつきやすい科目だとより良いですね。私はたまたま好きな科目=得点差がつきやすい科目だったので、運が良かったですね。
最終的にはこういう点も含めて人生はすべて運だと思います。
2.-(3) 基本書+判例百選+過去問
司法試験を受験していたときは色んな勉強をしましたが、最終的には基本書と判例百選を正確に理解して、過去問の演習を行うことに凝縮されると思います。
もちろん演習教材や参考文献として良いものはあります。京大ロースクールで使っていた〇〇事例演習シリーズは良書だと思います。
でも、結局これらの目的は基本書の正確な理解に集約されると思います。現在から振り返ると基本書のどこに何が書いてあるか、この基本書はどういう位置づけかは覚えてますが、事例演習教材で勉強した事例とか全く覚えてないですからね…笑
基本書を地道に勉強して、判例百選を繰り返し勉強して(適用場面や判断枠組みを正確に理解する)、過去問を解きましょう。これらを十分やり切った後に他のことに手を出すのでも遅くないと思います。
3. 民法の勉強法+おすすめ基本書3選
司法試験の受験にとって民法の勉強は最も時間をかけるべきだと思います。正直、民法ができないのに他の科目だけできるとかあり得ない気がしました。
- 他科目に比べて分量が多い
- 法的思考の基礎になる
得点差が非常につきやすい
民法科目の特徴としては以下の点が挙げられると思います。抽象的には、AとBの利益を調整するために条文ができているが、例外的にBの利益が増加するときは異なる結論になるイメージです。
- 原則と例外による判断枠組み
- 判断枠組みは私人間の利益衡量に基づく
- 裁判例が利益衡量に基づいて結論を修正する
3.-(1) 山本敬三著「民法講義Ⅰ」・「民法講義Ⅳ-1」
山本敬三先生の本は難解で分量が多い民法の中でも、最も骨太で分量が多い基本書です。逆に言うと本書を完全に理解できれば該当分野はこれ以上勉強する必要はないでしょう。
本書の特徴は執ように色々な考え方を整理してあるところと、「民法講義Ⅳ-1」は立証責任・要件事実が意識されていることですね。
「民法講義Ⅰ」はまだとっつきやすいし面白く読めるのですが、「民法講義Ⅳ-1」は無機質・網羅的に情報が整理されているだけで面白みに欠ける印象を最初は受けます。
ただ、勉強が進み出すと「民法講義Ⅳ-1」は凄く良いですね。最初は無機質だったものが体系的・論理的だったことが分かり、網羅的に記載された情報に必ず答えがある痒い所に手が届く良書です。
本書は脚注にしばしば重要なことが書いてあります。分量も多いですし、内容も高度なので最初から一度に理解するのは困難でしょう。2~3年かけて以下のようなステップで繰り返し勉強する必要があるかと思います。
- 最初はざっとどこに何が書いているかを理解
- 学習が進んだ段階で辞書的に使う
- 最終的に重要分野を隅々まで読み込む(脚注含めて)
3.-(2) 中田裕康著「債権総論」
債権総論は中田裕康先生の本を利用していました。京都大学・ロースクールと潮見教授はお世話になっていたのですが、潮見教授の「プラクティス民法 債権総論」は癖が強すぎると感じました。
この点、中田裕康先生の著作は簡潔で読みやすかったため、この本を繰り返し勉強しました。
3.-(3) 潮見佳男著「基本講義 債権各論Ⅰ・Ⅱ」
基本講義 債権各論Ⅰ・Ⅱは司法試験に必要な情報としては十分ではないでしょうか。とくに不当利得・不法行為はこの本のみを使用して勉強していました。
契約法は本書で概要を掴み、分からない点を山本敬三著「民法講義Ⅳ-1」を辞書的に使って補えば上位合格レベルの実力はつくのではないかと考えています。
4. 会社法のおすすめ基本書::江頭憲治郎著「株式会社法」
会社法と言えば江頭教授の分厚い「株式会社法」を隅々まで読み込むのが王道かつ確実な勉強法だと考えていました。
とくに企業法務を志望するのであれば、実務に出たときに確実にチェックする文献ではあるので、司法試験受験時代から学んでおいて損はないでしょう。
他方で、この本を通読するのは現実的ではありません。例えば、判例百選や事例演習教材と併用しつつ、テーマを決めて該当する箇所をそれぞれ潰していくのが良いのかなと思います。
5. 民事訴訟法のおすすめ基本書:高橋宏志著「重点講義 民事訴訟法(上)(下)」
民事訴訟法に関しては、有斐閣アルマの民事訴訟法でざっくり概要を理解し、本書を繰り返し読んで勉強していました。
基本的には判例百選と本書を理解していれば、司法試験に上位合格できる実力はつくのではないでしょうか。
「重点講義 民事訴訟法」の良いところを挙げるとすれば、何度読んでも新しい発見があって面白いことですね!
まず最初は本文を追って通読して高橋宏志先生の考える論理に感動します。次は脚注にも注目しながら通読し、「こんな細かいところまで考えているなんて!」と感動します。さらに、脚注を踏まえて再度本文を読むと理解が深まっていることに気づいて感動します。
スルメのように噛めば噛むほど味わい深い一冊ですね。
6. 刑法のおすすめ基本書
刑法は正直語ることができる程に思い入れがないのですが…笑
6.-(1) 大谷實著「刑法講義 総論・各論」
刑法総論に関しては本書をメインとして利用していましたが、あまり深い理解を得られたような気がしないですね…
むしろ、井田良、佐伯仁志他著「刑法事例演習教材」や司法試験の過去問を解いたり、判例百選の解説を読みながら色々考えつつ勉強していった感じがします。
6.-(2) 西田典之「刑法各論」
大谷實先生の刑法各論が分かりにくかったので購入したものです。こちらは刑法各論を勉強するためには使いやすいかと思います。
刑法各論に関しては本書を専らメインとして使用していました。但し、刑法総論は利用していなかったので、論理的に整合するかは疑問を感じていました笑
7. 刑事訴訟法のおすすめ基本書:酒巻匡著「刑事訴訟法」
刑事訴訟法は本書を完璧に理解することに尽きるのではないでしょうか。
当時は、法学教室連載「刑事手続法に学ぶ」をコピーして、製本して利用していました。なお、当該連載から加筆されたのが本書のようですが、本書自体は読んでいませんのでご注意ください。
刑事訴訟法の原理・原則を踏まえた分かりやすい論理展開に、司法試験でそのまま論証として使える簡潔さが魅力的ですよね。
とくに任意捜査・強制捜査や伝聞法則は、意外と正確には理解していない人も多いためか差がつきやすいように思われます。
8. 憲法のおすすめ基本書:なし
憲法は最も苦労した科目であり、憲法の受験直後に周りの受験生が話していることが漏れ聞こえて絶対足切りになったと思った記憶があります。
芦部信喜・高橋和之「憲法」は基本的な理解を得るために常に読んではいましたが、それ以外はしっくり理解できることはなく、そのまま司法試験を受験しました。
従って、憲法のおすすめ基本書はなしということになります。
9. 行政法のおすすめ基本書:櫻井敬子・橋本博之著「行政法」
行政法も理解できたような、理解できないような漠然として手ごたえしか感じていませんでした。ただ、憲法と違って丁寧に食らいついて、提示された条文をよく読めば大外しはしないのではないかと思っていた気がします。
本書は分厚くはない本ですが、さらっと記載があって初学者でも理解しやすかったです。本書を読みながら、曽和俊文・野呂充著「事例研究行政法」を解くことで学習していました。
10. まとめ:好きな基本書を使いましょう
本記事ではおすすめの基本書を紹介しましたが、司法試験の勉強方法は千差万別だと思います。
とくに、私は、大学・ロースクールの授業を受けながら、のんびり勉強していたら合格したので相当趣味の要素もあると思います。
現在だと、社会人+予備試験の方等は限られた時間の中で効率よく学習する必要があり、それであれば他におすすめの書籍はあるでしょう。
本記事で紹介しているのは、あくまで「私が好きだった本」です。皆さんの好みに合った基本書が見つかると良いですね!