弁護士が就職難だと耳にしたことはありませんか?
これから弁護士を目指す人、司法試験受験生や司法修習生の中には弁護士は就職難だという話を聞いて不安になっている人もいるかもしれません。
この記事では弁護士の就職難は真実か嘘かについて、司法修習生として就職活動に触れた経験と経営者弁護士として採用活動を行った経験に基づいて実態を説明します。
結論から言えば「弁護士の就職難は真実でもあり、嘘でもある」です。
どのような法律事務所に就職するかや年度によって就職難はありました。ただし、最近は弁護士の就職難は概ね解消されています。
これから弁護士を目指す人の弁護士=就職難の噂に惑わされず安心して弁護士を目指してください。
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
Contents
1. 弁護士が就職難と言われるようになった原因
1.-(1) 司法制度改革による弁護士の大増員
そもそも弁護士が就職難と言われるようになったのは司法制度改革による弁護士の大増員が原因です。2004年に法科大学院がスタートし、2006年から新司法試験が導入されました。
新司法試験の初年度合格者は、司法修習新60期ですがこのときの合格者は約1000名程度でした。
旧司法試験時代には合格者数は500名程度で推移していましたが、新60期は1000名、新66期には2100名を超えるようになり、弁護士人口は大幅に増加しました。
このような司法制度改革による弁護士の大増員が就職難の背景です。
1.-(2) 経営者弁護士が限られるのに新人弁護士が増加
司法制度改革により新人弁護士は増加したものの、急に経営者弁護士は増加しませんでした。
毎年、弁護士を大量に採用するのはごく限られた法律事務所であり、法律事務所の大半を占める弁護士1~2名の法律事務所では数年に1名程度しか採用しないことも少なくありません。
新人弁護士は増えたのに経営者弁護士=法律事務所数は直ちには増えなかったという、法律事務所の採用活動の構造が弁護士の就職難に追い打ちをかけたと言えるでしょう。
1.-(3) 2010年前後のマスコミによる煽り報道
さらに弁護士の就職難のイメージを加速させたのが2010年前後のマスコミによる煽り報道です。
2010年前後に司法修習をしていた新64期~新66期の弁護士に話を聞くと、マスコミがさかんに「弁護士は食えない」、「弁護士は就職難だ」と報道していたのを記憶していると思います。
マスコミによる報道の威力はすごく、おそらくマスコミの報道が盛んだったのは2010年代半ばまででしたが、「弁護士は食えない」、「弁護士は就職難」という当時の報道のイメージは現在まで続いています。
2. 弁護士の就職難の実態:新65期前後は真実、新60期後半以後は嘘
まず弁護士の就職難の実態について年度別の傾向から説明します。
2.-(1) 年度別の就職難易度の推移
修習期 | 合格年度 | 合格者数 | 就職難易度 |
新62期~ 新65期 |
2009年度~
2011年度 |
約2050名 | 難 |
66期~
67期 |
2012年度~
2013年度 |
約2050名~
約2100名 |
激難 |
68期 | 2014年度 | 1,810 | 普通 |
69期 | 2015年度 | 1,850 | 易 |
70期~
73期 |
2016年度~
2019年度 |
約1500名~
約1600名 |
激易 |
分かりやすく修習期・合格者数・就職難易度の推移を一覧化しました。なお、就職難易度は個人的な感想であったり、先輩・後輩弁護士に話を聞くことによる体感です。
概ね司法試験合格者数が2000名を超えるようになった新62期頃から弁護士の就職難が問題視されるようになりました。
2010年前後(新64期~67期頃)には弁護士の就職難についてマスコミが過熱報道をするようになり、「弁護士は食えない」、「弁護士は就職難だ」というイメージが定着しました。
他方で、新68期頃を境に就職状況は劇的に改善したと思います。当事務所では独立直前の新68期から採用活動をスタートしましたが、68期は何とか採用できましたが、69期以降については毎年採用に苦労しています。
従って、60期後半には就職難は解消されたと言って良いでしょう。
司法修習生の就職難易度(東京)は以下のように推移していると認識しています。
65期~67期 難:修習終了時点で決まってない人も少なくない
68期 普通:よほどハンデがなければ決まる
69期 易:売り手市場感が出てきた
70期~71期 激易:完全な売り手市場— 弁護士×就活Blog -Ginza library- (@GinzaLibrary) January 12, 2019
なお、就職難易度はあくまで個人的・主観的評価であり、全体的な傾向を指摘したにすぎません。就職難易度に対して「就職活動はそんなに簡単ではない」、「自分は就活に苦労した」等と文句を言う人もいますが、「あなたは就職活動に苦労したのは、そういう性格が原因ではないか。」と思われる可能性もあるのでご注意ください。
2.-(2) 弁護士の就職難についての具体的なエピソード
過去に就職難と言われていた時代について、弁護士の就職難の実態を具体的なエピソードで簡単に描写したいと思います。そんな時代もあったのだなと感じていただければと思います。
- 履歴書を数十通出してもお祈りをされてしまう
- 司法修習が終了する時に内定がない人がいた
- 就活が決まらず土日は毎週修習地と都市圏を移動していた
- 不当に低廉な待遇(年収300万円前半)で買い叩かれた
とくに大学・ロースクールがややマイナーな人、合格回数が多い人や年齢が高い人を中心に就職活動は非常に難航していました。心は弁護士は食えない(年収が低い)、弁護士は就職難だというイメージは、少なくとも一部の司法修習生には生じていた問題だと思います。
2.-(3) 弁護士の就職難が解消された原因
68期頃から弁護士の就職難が解消されたのは、弁護士の合格者数が減少×大手法律事務所の採用増加が原因です。
弁護士の就職難が解消された原因が続く限り、今後も弁護士の就職難が生じる可能性は少ないと言えるでしょう。
弁護士の合格者数は70期頃から約1500名程度になり、ピーク時から25%程度も減少しています。採用活動・就職活動も需要と供給という市場原理で動いているため、供給=修習生がいきなり25%も減少すれば一気に買い手市場から売り手市場に動きます。
だらに大手法律事務所の採用増加が拍車をかけています。下記グラフを見れば、五大法律事務所の採用は最も少ない64期から徐々に増加し、72期からは64期の2.5倍以上に増えています。
五大法律事務所の採用数だけでも合格者の1割を超えるようになり、採用対象の最優秀層からの裾野が広がったことでその他法律事務所の採用基準が緩和したことは想像に難くありません。
(参考)ジュリナビHP「72期5大事務所新人弁護士採用人数 期別推移グラフ」より抜粋
リーマンショック(2008年9月)は62期の内定後ですが、62期から63期/64期はそれぞれ採用人数が約20%減/約45%減となっています。これはリーマンショックの影響により採用人数の減少=弁護士の就職難が起こったのではないかと思われます。
これに対し、東日本大震災(2011年3月)は65期の内定前ですが、64期以降は一貫して採用人数が増加しています。つまり、東日本大震災による採用人数の減少=弁護士の就職難は起こっていないことになります。
リーマンショック・東日本大震災はいずれも景気動向に影響を与えるビッグイベントです。しかし、弁護士の採用人数については正反対の結果が出ています。この点は景気/不景気が弁護士の就職動向に影響を与えないか、又はリーマンショックと東日本大震災で弁護士業務の増減に与える影響が違うかのいずれかは興味深いように思われます。
3. 法律事務所による弁護士の就職難の違い
また年度別の就職難易度とは異なり、法律事務所によっても弁護士の就職難か否かの傾向はあります。
3.-(1) 四大法律事務所等:就職は難しいかつ易しい
まず四大法律事務所(五大法律事務所)を筆頭として、大阪四大・準大手企業法務系法律事務所等は採用活動の特殊性からあまり年度別の就職難易度に影響されていないようです。
なぜなら、合格者数の増減により就職・採用状況に影響を受けるのは、率直に言えば優秀層以外です。
基本的に四大法律事務所等は優秀層について熾烈な採用競争を繰り広げており、司法試験合格者の増減で裾野が多少広がっても影響を受けにくいと言えます。
四大法律事務所等は採用人数増加により、一部の大学については成績要件等が緩和されていると思いますが、
それでも原則として東大・京大・一橋・早慶が採用対象であり、この中で優秀層以外は就職は難しいと言えるでしょう。
他方で、この中での優秀層については複数の四大法律事務所等から内定を貰っており、超売り手市場(もしくは法律事務所を選ぶ立場)であることは変わりません。この点は一般的に就職難と言われていた65期前後でも同様でした。
3.-(2) ブティック系法律事務所・名門法律事務所・外資系法律事務所:就職難
あまり目立たないですがブティック系法律事務所・名門法律事務所もあまり合格者数の増減に影響を受けずに一貫して就職は難しいと思います。
実は四大法律事務所等よりもブティック系法律事務所・名門法律事務所に狙って就職するのは難しいと言えるでしょう。
なぜなら、ある程度の採用人数がある四大法律事務所等と異なり、これらの法律事務所は採用人数が少なく年度によっては採用しないこともあるからです。そもそも就職のチャンスがないことすらある点で就職難易度は一貫して難しいと言えるでしょう。
3.-(3) 新興系大手法律事務所:就職は易しい
他方で、新興系大手法律事務所も年度に関わらず一貫して採用は容易だと言えるでしょう。
就職難である新62期から67期頃であっても、新興系大手法律事務所は積極的な採用をしていました。
実は就職に苦労していた司法修習生も、新興系大手法律事務所は評判が悪いからと回避している人も少なくありませんでした。新興系大手法律事務所も対象に就職活動をしていた人はさほど就職に苦労していなかったイメージです。
弁護士業界では、たしかに新興系大手法律事務所のイメージは良くありません。ただし、最近は若手弁護士を中心として、待遇がしっかりしていること、ワークライフバランスを重視した働き方ができることから「新興系大手法律事務所も悪くない」という印象が広がりつつあるようです。
正直、新興形大手法律事務所が弁護士業界で果たした役割はもっと高く評価されるて良い気がします。
ブラックの法律事務所から転職して、救われた若手弁護士も多いのではないですかね。
— GL×弁護士 (@GinzaLibrary) August 14, 2020
当事務所も規模拡大を目指して積極的な活動を行っています。
坂尾陽弁護士
弁護士や司法修習生の皆様が私たちと働きたいと思われたなら、若手弁護士の働き方の特設ページをご覧ください。就職活動・転職活動をしている弁護士・司法修習生の皆様の参考になる情報を記載しています。
4. 弁護士の就職が難しくなりやすいパターン
ここまで弁護士の就職難について全体的な傾向を説明してきました。ここから、簡単に、弁護士側の事情によって弁護士の就職が難しくなるパターンについて説明します。
4.-(1) 学歴・成績のスペックが足りていないのに高望みする
四大法律事務所等は学歴・成績を重視した採用活動をしています。従って、学歴・成績のスペックが足りていないのに、このような法律事務所等に高望みをして固執すると就職に苦労するでしょう。
4.-(2) 司法試験の合格回数が多い/成績が良くない
司法試験の合格回数が多いと就職活動に苦労するのは残念ながら真実だと思います。
また、とくにボス弁が旧試合格者であるときは、採用時に司法試験の成績を重視されることもあるようです。
旧司法試験は500名程度しか合格しなかったため、「司法試験の成績が500位以内でないと採用しない」という話を聞くことがあります。一つの目安としては参考になるでしょう。
当たり前ですが司法試験の合格回数は少ないに越したことはありません。就職難に陥らないためにも、しっかり勉強する方が良いでしょう。
なお、合格回数が多い人については下記記事も参考にしてください。
(参考)司法試験の受験回数と就活について~多数回合格者が注意すべきポイント
4.-(3) 年齢が高い
ロースクール制度の趣旨は多様な人材に法曹の道を開くことでした。このため、社会人経験者で弁護士を目指す人も多くなっています。
社会人経験者等では年齢が高いため就職活動に苦労するということがあるようです。
たしかに年齢が高いと新卒採用に注力している企業法務系法律事務所は要件に合わなかったり、同期間の年齢差を考慮する検察・裁判官に就職するのは難しいかもしれません。
しかし、年齢が高いことは逆に就職活動の武器になることも考えられます。この点については下記記事をご覧ください。社会人経験者でこれから弁護士を目指そうと考えている人を中心によく読まれています。
(参考)弁護士の就職に年齢は関係するか?|年齢が高いと就職活動が有利なポイント3つ
当事務所は年齢が高くても社会人経験がある方を積極的に採用しています。ご興味がありましたら弁護士の就職・転職活動のページからご連絡ください。
坂尾陽弁護士
弁護士や司法修習生の皆様が私たちと働きたいと思われたなら、若手弁護士の働き方の特設ページをご覧ください。就職活動・転職活動をしている弁護士・司法修習生の皆様の参考になる情報を記載しています。
4.-(4) インターン・クラークや面接で失敗するケース
すごく基本的なことですが性格が悪かったり、一緒に働きたくないと思われると就職に苦労します。四大法律事務所等のスペック重視の法律事務所であっても、性格・人柄が一定水準以上であることは慎重に見極められています。
従って、四大法律事務所等の主催するサマークラーク・インターンやウィンタークラーク・インターンの振舞いや、その他法律事務所における面接の対応で失敗すると就職に苦労します。
一般企業の就職活動では面接対策等を行っていますが、弁護士の就職活動ではあまり面接対策がされていません。弁護士秘書希望の大学生に比べて、司法修習生はかっちりと対策をしてないと感じることがほとんどです。
弁護士の就職活動では几帳面にマナーを気にしたり、かっちりと礼儀正しくすることまでは求められていませんが、インターン・クラークや面接で弁護士と話すときの最低限の対応は知っておきましょう。
弁護士の就職難は解消されている!就職難の原因や実態を分析しました
弁護士の就職難という噂を聞いて本当か嘘か不安に思われているかもしれません。しかし、就職難の原因は司法制度改革による弁護士増員が原因であり、たしかに新62期~67期頃までは就職難の実態がありました。
もっとも、現在は合格者数減少や大手法律事務所の採用数増加により、就職難は完全に解消されています。むしろ、経営者弁護士は採用に苦労しており、売り手市場だというのが実態です。
現在では弁護士の就職難は嘘ですが、これはマスコミの2010年代前後の煽り報道が原因で実態と異なるイメージが残っているためです。
もっとも、弁護士の就職難が解消されたと言っても、きちんと就職活動を行わないと苦労することもあります。弁護士の就職難について実態と原因を踏まえて、冷静に対応する必要があるでしょう。
現在の就職活動についてはTwitterでも呟いています。定期的に情報交換の交流会も行っておりますので、よろしくお願いいたします。
坂尾陽弁護士
当事務所の正式な採用選考は司法試験の合格発表後にスタートします。但し、就職事情について意見交換したい、事前に一度話を聞いてみたいという方からのご連絡も受け付けております。とくに当事務所にご興味をお持ちいただける方からは、下記ページからご連絡いただけれますと幸いです。