残念ながら司法試験に一発合格できなかったとき、司法試験の受験回数が多いことで就職活動が不利になるのではないかと不安に思われるかもしれません。
たしかに、四大法律事務所等のスペック重視の採用活動では受験回数は大きく考慮されます。
しかし、ほとんどの法律事務所の採用活動においては、司法試験に1~2回落ちた程度では決定的な悪影響はないでしょう。
もっとも、長年、司法試験の挑戦してようやく合格した「多数回合格者」に共通する失敗もあります。この記事では、司法試験の受験回数と就活についての考えを説明します。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
Contents
1. 書類審査における受験回数の影響
書類審査で受験回数がどの程度考慮されるかは法律事務所によります。スペック重視の採用活動でない限り、原則としては受験回数が2~3回目程度であれば、それだけで書類落ちすることはないでしょう。
1.-(1) スペック重視の採用活動をする法律事務所
四大法律事務所等を始めとしてスペック重視の採用活動をする法律事務所においては、基本的には一発合格でないと就職は難しいと考えてください。
主に一定規模以上の企業法務系法律事務所であり、司法試験の合格発表前に内定を出すのであればスペック重視の法律事務所だと考えて良いでしょう。
司法試験の合格発表前に内定を出すということは、司法試験は一発合格することを前提と考えていると言えます。また、ある程度の規模であると先輩・同期・後輩がある程度は揃ってる必要があるため、司法試験に落ちてしまうと内定を維持するのが難しいのだと思います。
もっとも、法律事務所側から期待されている内定者は、司法試験に落ちても内定を維持できることもあると噂されています。
いずれにせよ、司法試験の合格発表時に残念ながら不合格だと分かったら、早めに法律事務所に連絡して対応を相談するべきでしょう。
1.-(2) 受験回数2~3回目までで合格したケース
以下では通常の法律事務所における採用活動において、受験回数がどのような意味を持つかを考えてみます。
結論から言うと受験回数が2~3回目程度であれば、さほど受験回数で大きな不利益を被ることはないと考えて良いでしょう。
採用活動を行う経験からしても、必ずしも一発合格者ばかりではありません。一発合格者はスペック重視の法律事務所に就職する可能性が高いことを考えると、むしろ、2回目の受験で合格した方と面接する方が多いぐらいにも感じます。
1.-(3) 受験回数4~5回目で合格したケース
これに対し、受験回数が4~5回目で合格した人については、受験回数2~3回目までで合格した人と少し違いがあるかもしれません。
当事務所では学歴・成績・年齢等を重視せず、人柄重視の採用活動を行っています。しかし、受験回数が4~5回目の合格者はそもそも母数が少ないのか、少し印象に残ると感じます。
法律事務所によっても異なると思いますが、スペックを最重視してないまでもある程度は考慮したい法律事務所であれば、受験回数が4~5回目だと足切りにあう可能性はあるような印象を持ちます。
客観的なデータからも、合格率は、受験1年目で約35%、2~3年目で約20~25%なのに対し、4~5回目だと7%前後に大幅に下落するようです。採用担当者側がどのように判断するかを知った上でアピールを工夫する必要があるかもしれません。
2. 弁護士の実力と受験回数は関係するか?
2.-(1) 人柄重視の採用活動による実体験
当事務所は人柄重視の採用活動を行っており、学歴・成績・年齢等を重視していません。そのため、多数回合格者や40代の合格者等の様々な弁護士を採用しています。
採用面接における感想としては、面接で話す限りにおいては受験回数で優秀さは分からないと感じます。一発合格者で魅力的でないと思う司法修習生もいますし、5回目合格者でも魅力的だなと思う司法修習生もいるのが率直なところです。
なお、採用面接時において自分の魅力をアピールする話し方については下記記事を参考にしてください。
2.-(2) 弁護士に必要な能力が劣ってるわけではない
また、弁護士として働くようになってからも、少なくとも一般民事案件等を担当する限りでは多数回合格者だからと弁護士の能力が劣るとは感じません。
この点は、企業法務系法律事務所で細かいリサーチ等を行う場合には影響があるかもしれません。
しかし、一般民事案件を扱う上では司法試験のような緻密な議論よりも、顧客の心情に寄り添って丁寧に説明できるか、電話対応や事務作業に積極的に取り組めるかが成果に結びつくように思います。
誤解を生むかもしれないですが、一般民事案件を扱うために必要な法律知識・論理能力は司法試験に合格するよりも低いもので足りると言えるかもしれません。
2.-(3) 社会人経験の有無が重要
ここからは当事務所の採用方針であり、法律事務所によって考え方が分かれるかもしれません。しかし、当事務所としては、多数回受験者か否かよりも、社会人経験の有無が重要だと考えています。
正直、社会人として働いてから司法試験にチャレンジしたケースでは、合格までに時間がかかる傾向があると感じています。
しかし、多数回合格者でも、社会人経験がある方であれば、多少年齢が高いケースでも魅力ある人柄であり、弁護士としても活躍していただけることが多いです。
(参考)弁護士の就職に年齢は関係するか?|年齢が高いと就職活動が有利なポイント3つ
これに対し、社会人経験がなく、司法試験に長年専念していたような多数回合格者は当事務所では積極的に採用していません。これは受験回数が多いことを不利に考慮したのではなく、採用面接時に悪い印象を受けることが多いからです。
3. 多数回合格者が採用面接時に気を付けるべきポイント
社会人経験がない多数回合格者を前提として、ここからは多数回合格者が採用面接時に気を付けるべきポイントに言及します。
多数回合格者から悪印象を受ける理由には共通するポイントがあります。自分の魅力を採用面接時に発揮できないと損をするので、少し意識していただければと思います。
3.-(1) 司法試験の話題を避ける
長年、司法試験に専念してきた多数回合格者と採用面接をすると、何の話をしても司法試験に流れるという印象があります。
司法試験に専念してるので話題がないのは理解できるのですが、司法試験に言及しないぐらいのつもりの方が良いと思います。
よく話される内容と採用担当者からの感想を一覧化しました。
今まで不合格だった理由について | 不合格の理由は興味がないし、言い訳や負け惜しみに聞こえるときもあるのでご注意ください。 |
司法試験絡みの長所のアピール | 「諦めずにコツコツ勉強することが長所で、司法試験に合格できました」みたいなアピールは、基本的に合格者の中から採用選抜をするため優位になり得ないと思います。 |
合格年度の司法試験の問題について | 採用担当者はどんな問題が出たかあまり興味がありません。 |
採用面接は司法試験合格者の中から選別するものです。多数回受験者にとっては司法試験に関しては大きなディスアドバンテージを負っています。基本的に司法試験について語ると不利になると思った方が良いでしょう。
3.-(2) 謙虚な対応を心がける
採用面接や多数回合格者に限った話ではないのですが、謙虚な対応は重要です。
しかし、長年、司法試験にチャレンジしてようやく合格した方は「司法試験に合格したことで自分を特別な存在と思っているのでは?」と感じるケースがあります。
弁護士になると様々な司法修習生に接する機会があり、大学在学中に予備試験に合格して四大法律事務所の内定を持ってる人もいますが意外と謙虚です。
当たり前ですが若年合格者/一発合格者は多数回合格者よりも優秀なはずです。それなのに、なぜか多数回合格者の方が言葉の節々から謙虚でないと感じることがあります。
個人的には、長年司法試験の受験業界に居て合格者/不合格者の壁を感じてきたからこそ、自分が合格者になったことで特別さを感じるのかなと思いますが、いずれにせよ謙虚でないと思われると採用面接では決定的に悪印象です。
この点は少し意識して謙虚に振舞うことをおすすめします。なお、採用面接のポイントについては下記記事もご覧ください。
(参考)採用担当弁護士から司法修習生へ送る就職活動のコツ(面接編)
3.-(3) 人柄でアピールする
採用面接では一般的に自分の長所・短所を自己紹介した上で、短所については上手くフォローをすることが求められます。
多数回合格者は、おそらく短所=合格まで時間がかかったことと考えて、短所をリカバリーするような対応をしがちなのだろうと思います。
しかし、残念ながら司法試験の合格までに回数がかかったのは厳然たる事実であり、どう説明してもリカバリーは難しいです。
法的知識や法的素養といった能力面で長所・短所に言及するのは得策ではないように思われます。
具体的には、もっと人柄が分かるようなアピールをするべきだと思います。採用担当者は多数回合格者だと知っているわけなので、その点は理解した上で面接をしているわけです。
逆に言うと自分で思っているほど合格に時間がかかったことは不利益には考えられていないはずです。面接では直接会って話すからこそ分かる「人柄」を見たいので、この点を意識しましょう。
具体的には、息抜きでしていたこと等を話すのが良いと思います。すごく盛り上がるようなエピソードはなくとも、好きな小説なんかの話をするだけでも十分人柄は伝わります。
正直、長年受験に専念していると語れるエピソードに苦慮するのは分かりますが、元々不利な勝負であるわけなので、その中で少しでも人柄が伝わるような工夫をするのが良い戦略だと考えられます。
就職活動に答えはなく、ここで記載したのは個人的な見解です。ただ、少なくとも指摘しているような注意点を意識するだけでも、悪印象を与える可能性は少なくなるはずです。
就職活動の成功を保証するものではないですが、参考にしていただければと思います。
就職活動時に司法試験の受験回数にとらわれ過ぎない!
スペック重視の法律事務所においては受験回数はたしかに大きな考慮要素です。しかし、受験回数を重視していない法律事務所もあります。
但し、人柄重視の採用活動をしている法律事務所でも、長年司法試験に専念しているような多数回合格者は、話題が司法試験のことばかりでであるとか、謙虚でない等であれば魅力的な人柄ではないとして採用されません。
そのような多数回合格者に共通した注意点もあるので気を付けてください。
いずれにせよ就職活動時に司法試験の受験回数を過度に意識するのは得策ではないと思います。自分の人柄・魅力をアピールすることに注力しましょう!
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