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採用マーケティングについて考えてみた|私たちが抱える課題と解決の方向性

弁護士事務所の経営をスタートしてから約3年が経過しようとしています。独立当初は集客や売上向上を目標と考えていましたが、最近は司法修習生・若手弁護士の採用活動が決定的に重要だと痛感しています。

 

そもそも、日本社会全体が明らかに少子高齢化のトレンドにあり、労働人口の減少に拍車がかかっています。また、弁護士の採用活動についても、2008年頃をピークとして、合格者数の減少傾向によって売り手市場感/採用活動の困難さが増しています。

 

とくに弁護士事務所は、弁護士そのものが商品・サービス自体と言っても過言ではなく、いかに採用活動を成功させるかが成功の秘訣になると考えています。採用活動の手法としては様々なものがありますが、私が得意なマーケティング手法を活用した「採用マーケティング」に今後力を入れていきたいと思います。

 

本記事では、司法修習生・若手弁護士の採用マーケティングについて、私たちが抱える課題や解決の方向性を考えてみたいと思います。

 

MEMO

採用広報という言葉もあります。採用マーケティングと採用広報の違いに関しては考えを整理したいと思っています。

 

(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

 

1.     採用マーケティングとは

 

採用マーケティングはマーケティングの手法や考え方を採用活動に活用する取組みであり、アメリカのHR業界などから生じた考え方のようです。

背景としては、アメリカは国土が広いことから1to1でアプローチをすることが困難であり、相対的にマーケティングやブランディングが重要になるという背景事情があるようです。

 

1.-(1)  採用マーケティングが重要である理由

 

採用マーケティングが重要である理由は、日本全体が売り手市場のトレンドにあり、従来のように求人広告を出して顕在層にアプローチをするだけでなく、潜在層にアプローチをする必要性が高まったためです。

求人サイトに広告を出稿したり、人材紹介エージェントを利用するだけでは潜在層に適切にアプローチをすることができません。

 

弁護士の採用活動は、従前はひまわり求人+人材紹介会社がほとんどだったかと思います。ひまわり求人は依然有効な手法ですが、中小の法律事務所にとっては人材紹介会社は紹介Feeの高さから採用に踏み切り難いのも事実です。

そのため、潜在層にアプローチしてより優位な採用活動を進めるために、採用マーケティングが重要であると考えtえいます。

 

※紹介Feeは年収の35%~で、士業業界でも公認会計士などは70%超のこともあるそうです。売り手市場感の高まりとともに、紹介Feeも高騰していると感じています。

 

1.-(2)  採用マーケティングのメリット

 

採用マーケティングの仕組み作りに成功することは多大なメリットをもたらします。

 

どのようなマーケティング手法を採るかにもよりますが、採用マーケティングは潜在層にアプローチをし、自社媒体を通じて志望度を高めて採用に繋げるため低コストで採用活動が行えます。

仕組み作りのハードルは高いものの、採用マーケティングのためのコンテンツや情報は資産化できるため長期的にはコスト削減に繋がります。

 

また、採用マーケティングのポイントは、情報発信を通じて認知→ファン化を狙うことにあります。私たちの魅力を知って、事務所理念や文化に共感して入所いただければ離職率を押さえられるのではないかと考えています。

さらに採用マーケティングの情報発信・ファン化の仕組みは、安定した人材確保に繋がると考えています。

 

1.-(3)  弁護士事務所と採用マーケティング

 

採用活動を仕組化できる採用マーケティングは、弁護士事務所特有のボトルネックを解決できるとも考えています。

 

弁護士の採用活動は、司法修習生・経験弁護士の評価をするのは弁護士でないと難しいのに対し、弁護士は本来的な弁護士業務もやらなければならない点がネックです。

  • 忙しくて十分な面接の機会を確保できない
  • 複数の弁護士による評価のすり合わせに時間がかかる
  • 採用/不採用の連絡等の事務作業が後回しになる

 

私たちの採用活動においても、採用/不採用の連絡などを各弁護士が抱えてしまい、連絡漏れなどが頻繁におきているのが現状の大きな課題です。

他方で、弁護士業務が緊急性が高くどうしても、採用活動の事務作業は優先順位が後回しになりがちです。弁護士業務で忙しい弁護士に対し、採用活動のタイムリーな対応を強制すると弁護士業務がパンクしかねません。

 

採用マーケティングの仕組み作りを行うことは、多忙な弁護士が不可避的に採用活動に携わる必要がある課題を解決するための方向性だと考えています。

 

 

2.     採用マーケティングの取組み

 

マーケティングの重要要素として「ターゲット」や「ペルソナ」の設定が挙げられます。採用マーケティングにおいても、まずはターゲット(求める人材)の明確化がスタートとなります。

 

2.-(1)  求人内容の確定

 

採用マーケティングにおいて、求人内容を確定し、求める人材にアピールすることが重要となります。しかし、このターゲットや求人内容を確定することが、私たちのような設立されたばかりの法律事務所は難しい面があります。

 

そもそも、採用マーケティングが課題であると考えるようになったのも、個別的な採用活動の限界を感じたからです。

私たちは、設立3年未満の法律事務所であり、取扱案件や事務所メンバーを初めとして非常に大きな流動性があります。

新規案件分野の開拓、事務所の組織作りについて、現状の案件処理と平行しながら行っており、ターゲットや求人内容も合わせて変更される可能性があります。

 

採用マーケティングにおいては、どのような仕事を任せるのか、どのような性格・人柄の方に応募いただきたいか、事務所や仕事の魅力は何か、どのような職場環境かを発信する必要があります。

率直に言って、私たちはこの辺りが流動的なことが一貫したメッセージを発信するための課題として残っています。

 

2.-(2)  認知獲得:潜在層へのアプローチ

 

司法修習生・経験弁護士が就職活動・転職活動を始める前にアプローチできるかが採用マーケティング成功のキモだと考えています。とくに採用活動に動きだす前の司法修習生にこちらからプッシュ型のアプローチができる方法を常に考えていますが、なかなか難しい。

 

最近少し手応えがあるのはTwitterです。割と司法修習生を見つけやすいですし、おすすめのユーザーで司法修習生が出てくるのが良いと思っています(無言フォロー失礼します。)。

 

その他には司法試験受験生・予備試験受験生に対してまで、アプローチを前倒しする必要があるのかなと思います。四大法律事務所のようにブランド力があれば、待っていても優秀層から引き合いがあるのでしょうが…

 

採用マーケティングは、潜在層×プッシュ型のアプローチをどうやって仕掛けるかが課題だなと感じています。

 

2.-(3)  オウンドメディアの構築

 

採用マーケティングにおいて、認知を獲得した後にファン化するための仕組みとしてオウンドメディアの継続的な運用は必須だと思います。私たちの場合は、本ブログが採用マーケティングのためのオウンドメディアに相当します。

 

本ブログは採用マーケティングの観点では複数の視点からのコンテンツを用意しています。

  • 司法修習生向けのお役立ち情報
  • 独立を考えている若手弁護士向けのマーケティングTIPS
  • 代表弁護士の人柄を伝える銀座グルメや読書情報

 

正直、司法修習生や若手弁護士がどのようなコンテンツを求めているのかは手探りの状況です。また、採用マーケティングの仕組みが上手く構築できれば、弁護士・スタッフや社内イベントの紹介などのコンテンツも充実できればと考えています。

 

2.-(4)  採用フローの整理

 

司法修習生の採用活動はある程度画一的な採用フローに整理できるのではないかと考えています。この「画一的な」仕組み作りが採用マーケティングを導入するメリットでもあるわけです。

 

正直、現状では各弁護士が弁護士業務の片手間に分担して面接・評価や事務作業を行っていますが、採用/不採用の連絡漏れなどの採用フローが杜撰だと言わざるを得ません。

 

また、内定受諾の後も適切なフォローをしないと内定辞退が生じてしまうと考えています。採用活動は、散発的に行っており、正直ノウハウの蓄積・整理が十分ではありません。

新規案件処理のように毎月数十件単位で生じるものと違って、共通点を抽出してフロー化することが難しいと感じています。この辺りを整備することが今後重要になってくるのかなと思っています。

 

3.     採用後のフォロー体制

 

最後に、採用完了=内定受諾と考えたときの、採用後のフォロー体制について考えをまとめたいと思います。

フォロー体制とは要するに内定辞退を防ぐ取組みであり、この点も含めて採用マーケティングとして仕組みを作る必要があると感じます。

 

一般企業の場合も法律事務所の場合も同様に内定受諾から入所まで相当期間が空くため、この期間にどのようなフォローをするかがポイントになります。

とくに法律事務所の場合、司法修習生は内定受諾後も弁護修習→検察修習→裁判所修習を経て、様々な考え方に接する機会が多いため内定辞退に至る契機が多いのではないかと考えています。

従って、法律事務所の採用マーケティングでは、内定受諾後のフォローまで含めて仕組み作りをする必要性が相対的に高いと感じています。

 

フォロー体制は要するにイベントだと思っています。現在のところ考えとしてあるイベントは以下の通りですが、採用マーケティング全体に使える予算との兼ね合いもあるのでこの辺りの調整を今後行っていきたいですね。

  • 内定後のお祝いイベント
  • 定期的な懇親会イベント
  • 二回試験に向けた勉強イベント
  • 研修会イベント

 

4.     まとめ

 

弁護士・スタッフの採用力強化は、法律事務所にとって最重要経営課題と言っても過言ではありません。私たちのような法律事務所にとっては、個別的・その場しのぎな採用活動になってしまいがちです。

 

しかし、安定的・長期的な採用の成功を考えると、採用活動を仕組化する採用マーケティングの考え方は避けては通れないと考えています。ハードルは高いですし、現状は様々な課題がありますが、積極的な採用マーケティングに取り組みたいと思います。