リーガルテックが最近盛り上がりを見せております。とくに弁護士が代表を務めるリーガルテックに関するベンチャー企業も増えており、多額の資金調達に成功するなどの盛り上がりを見せています。
リーガルテックはAIを活用して弁護士業務をサポートするものであり、若手弁護士や司法修習生にとって今後重要性を増すことは間違いありません。また、司法修習生と話しているとリーガルテックやAIと弁護士業務の将来は関心が高い事項のようです。
そこで、今回は弁護士が経営するリーガルテック・ベンチャーをご紹介したいと思います。司法修習生や弁護士1~2年目の方は是非見てください。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
1. AI-CONレビュー(GVA TECH株式会社)
GVA TECH株式会社はAI契約書レビューサービス(AI-CON(アイコン)レビュー)を提供しています。弁護士によるリーガルテックは現時点では契約書周りが主ですね。
1.-(1) 代表取締役:山本俊弁護士について
GVA TECH株式会社の代表取締役は山本俊弁護士です。山本俊弁護士が代表を務めるGVA法律事務所は、1,000社を超えるベンチャー企業をサポートした実績があるそうです。
設立当初からベンチャーに強い関心を寄せられていたようで、最初の事務所はマンションだったそうです(山本俊弁護士のFacebook2012年7月24日投稿より「ベンチャーはやはりマンションからスタートしないとだめですよね(笑)」)
また、山本俊弁護士は弁護士向けのセミナーなども多数開催されております。とくに顧問先開拓や起業・資金調達に関するテーマは私も参加させていただいたことがありますが、ざっくばらんにお話いただき非常に役立ちました。
見るからに営業に強い!というタイプには正直思えないのですが、だからこそ営業が苦手な士業も参考にできる点が非常に多いと感じました。
ちなみに、私も山本俊弁護士の講義を聞いて実践しようと思いましたが、最終的に挫折した経験があります…笑
私はセールス(営業)よりもマーケティングが得意ですが、営業方法としては山本俊弁護士の方法は間違いないスタイルなんだろうなと感じました。
(参考)営業初心者の士業が知っておくべきマーケティングとセールスの違いを5分で解説
1.-(2) 山本俊弁護士と酸素カプセル
リーガルテックと関係ない話が続きますが、山本俊弁護士の話はぶっとんでいるエピソードを聞くことがしばしばあります。
とくに創業当初から成長段階までのエピソードは、私も事務所の成長を考える上でに非常に興味深かったです。
ネット上に公開されているものから1点ご紹介すると、酸素カプセルの購入です!
山本俊弁護士は思い切って自宅に酸素カプセルを購入されているそうです。凄く大胆な買い物ですよね…笑
酸素カプセルの搬入が完了しました!これでいつも万全のパフォーマンスです! pic.twitter.com/OCWZlHSewj
— 山本俊@AI弁護士 (@gvashunyamamoto) September 5, 2018
たぶん、酸素カプセルは脳の疲労回復により、質の高い大きな意思決定をできるようにするための投資と考えておられるのかなと思いました。
これを見て、私も酸素カプセルはいつか行きたいなと思ってます!二日酔い回復にも効果があるらしいので、酒飲みとしては興味津々です。
1.-(3) サービス「AI-CONレビュー」
リーガルテックに関してAI-CONレビューは、AIを活用した契約書チェックサービスであり、契約書をアップロードして末だけで契約リスクが判定されるというリーガルテックサービスです。
対象となる契約書は、業務委託契約やアドバイザリー契約、投資契約など31種類にも及ぶようです。
(参考)AI-CONレビューとは
AI-CONレビューは契約書レビューの最終判断は弁護士が行っています。そのためか、レビュー完了まで1営業日は要するようですが、従前の弁護士による契約書チェックのスピード感とは比べようがないと思います。
リーガルテックは技術力が問題となりますが、具体的な契約書チェックの内容や、AI-COレビューの修正例やレビューの精度は以下の記事を参考にしてください。
(参考)「今までかけてた時間がバカらしくなる」契約書レビューサービス『AI-CONレビュー』の精度を徹底検証
1.-(4) 今後のGVA TECH株式会社:約1.8億円の資金調達
GVA TECH株式会社の2018年9月3日付プレスリリースによれば、DBJキャピタル株式会社および西武しんきんキャピタル株式会社から第三者割当増資による約1.8億円の資金調達を実施されたようです。
同時にAI機能を実装した契約書作成支援サービスも提供を開始されたようです。同社によれば、契約書レビューではなく、契約書作成をAIにより行うリーガルテックサービスは日本初ということのようです。
また、2019年春頃には「AI-CON」シリーズ全体で5000社の登録を目指すようです。資金調達に成功され、今後もリーガルテックサービス拡充を目指されるということで注目されます。
(追記)2019年1月10日に山本俊弁護士のセミナーで聞きました
Legal ForceやHolmesなどの競合リーガルテックサービスとの違いについて質問したところ、AI-CONは法務部門だけでなく、事業部門に使って欲しいリーガルテックサービスと考えているとのことです。
基本的に競合他社は法務部門のプロフェッショナルをターゲットと考えていますが、山本俊弁護士は元々ベンチャー支援において「経営判断に役立つ法務」を提供したいと考えていました。
単に法務部門の負担軽減・コスト削減から一歩踏み込んで、経営陣や事業責任者に参考になる法務面のアドバイスを提供したいと考えておられるのかなと思います。これは凄く難しい課題感ですが、実現できれば付加価値はめちゃくちゃあると思いますし、リーガルテックの新たな展開になるので今後に期待です。
2. Legal Force(株式会社Legal Force)
株式会社Legal Forceは、法律事務所Zeloの共同開設者である角田望弁護士(CEO)・小笠原匡隆弁護士(COO)を代表とし、AIによる契約書レビューサービスを展開しています。
ちなみに、角田望弁護士・小笠原匡隆弁護士は、私の森・濱田松本法律事務所65期の同期です。たしか当初からリーガルテックを展開しており色々な話を聞いてるのですが、本記事では公開情報及び設立当初からの私の感想(後述)を中心に記載させていただきます。
2.-(1) 株式会社Legal Forceと法律事務所Zeloの役割分担
株式会社Legal Forceは角田望弁護士をCEOとし、法律事務所Zeloは小笠原匡隆弁護士をCOOとしています。リーガルテック業務は角田望弁護士、弁護士業務は小笠原匡隆弁護士をトップと扱っておられます。
株式会社Legal Forceに関しては、「AIは弁護士の仕事を奪うのか」という議論への違和感や、トップクラスのリーガルファームに所属していた弁護士ならではの問題意識が創業理由において言及されています。
私は、両弁護士に比べて弁護士業務・企業法務に関する温度差はありますが、上記違和感やリーガルテック・AIへの問題意識については非常に共感するところです。
かなりWantedlyに力を入れておられますので、ご興味がある方は隅々まで読まれると良いと思います。
(参考)僕らがLegal Forceを創業した理由ー社会全体の法務レベル向上を目指してー
2.-(2) 法律事務所Zeloの凄さ|旧司法試験1位以上
法律事務所Zeloは凄い事務所の一言に尽きます。厳しい採用基準により厳選された弁護士を揃えています。
採用理念:創業者(旧司法試験1位)より優秀であること!
法律事務所Zeloは、採用理念として創業者より優秀である人を採ることを掲げていますが、創業者である角田望弁護士は旧司法試験論文1位の実力者です(株式会社Legal ForceのHPより)。しかも、角田望弁護士は最後の旧試組である旧65期で修習生はたったの74名しかいなかった最も厳しいときです。
初めてこれを聞いたときに「誰が合格するねん!」と思いました…笑
しかし、現実には採用理念に恥じないメンバーを揃えており、圧倒的な採用力にはただ感服するばかりです。
2.-(3) サービス「Legal Force」
Legal Foceは、AI-CONレビューと同じくAIを活用して契約書レビューサービスです。リーガルテックの特徴としては京都大学と共同研究により自然言語処理技術を開発していることです。
Legal ForceとAI-CONの違いは、Legal Forceは法務プロフェッショナル向けのリーガルテックサービスを前面に押し出しているのに対し、A-CONは企業向けのサービスだということです。
分かりやすく言えば、依頼者=企業が契約書作成・チェックを依頼したいときに自社が直接サービス提供するのがAI-CONです。これに対し、Legal Forceは法律事務所に導入され、弁護士が依頼者に対して提供するリーガルサービスをサポートするイメージです。
両者の違いはリーガルテックのターゲットによる相対的なものだとは思いますが、設計理念が少し異なるのかなと思っています。
この点は、Legal Foceの創業理念において、「法務プロフェッショナルのためのAI」や「日本社会全体の法務レベルの向上」や「社会全体の法務レベルを向上」に度々言及されているところに現れていると思います。
2.-(4) 今後のLegal Force:約5億円の資金調達
株式会社Legal Forceの平成30年11月30日付プレスリリースによれば、株式会社ジャフコ、京都大学イノベーションキャピタル株式会社、株式会社ドリームインキュベータのファンドから約5億円の資金調達を実施しているようです。
また、同平成31年1月8日付プレスリリースによれば、三菱UFJキャピタル、みずほキャピタルから約4,000万円の追加資金調達を実行したようです。
リーガルテックの資金調達はにぎわっていますが、2017年設立を考えると、Legal Forceのスピード感・規模感はリーガルテック界隈でも凄いですね。
株式会社LegalForceの2021年2月17日付プレスリリースによると、資金調達の累計金額は約45億円に達したようです。
「シリーズCラウンドにおいて、ベンチャーキャピタルからの出資と銀行融資を合わせて約30億円の資金調達を実施いたしました。
増資と融資をあわせたシードラウンド以来の累計調達額は約45億円となります。」
引用元:株式会社LegalForceの2021年2月17日付プレスリリース
今後の展開に関しては、現行の対象となる契約類型(秘密保持契約、業務委託契約等5類型)を拡充することなどを目指しているようです。プレスリリースを見ましたが、正直なところ目指す方向性は分かりかねました…笑
ちなみにLegal Forceはリーガルテックを提供しているCLOUD SIGNが主催する契約書タイムバトル(AI vs 人間)に何度か参加されているようです。これを見ると現段階では人間が勝利しているようです。
(参考)第2回 契約書タイムバトル AI vs 人間 powered by CLOUD SIGN
(参考)AIは人間に勝てるのか!?LegalForceの挑戦
2.-(5) 創業当初に対する私の所感
私が独立したのが2016年であり、角田望弁護士・小笠原匡隆弁護士が独立したのが2017年なので、実は私が1年先に独立・開業を果たしました。
そのため、両弁護士が独立するときにお会いして色々とお話させていただきました。
正直なところ、当時は法律事務所Zeloの採用理念が「ハードル高すぎやろ!」と思ってたのと、リーガルテックがこんなに伸びるとは思いませんでした。今となっては、先輩風を吹かせて色々言って、本当にすいませんという感じです。
あれよあれよという間に、素晴らしい人材の獲得に成功され、しかも誰も辞めないというのが素晴らしいです(ベンチャーなのに!)。
私たちは、採用に非常に苦労しているので、心の底から羨ましいです。
勤務時間や待遇面では私たちの事務所は素晴らしいと思うのですが、司法修習生の事務所選びはそれ以外のところが大きいのかなと思っています。この辺りは別記事でも考察したいですね。
3. 注目すべき他サービス
最後に私の認識する(元)弁護士によるリーガルテック・ベンチャーに少し言及します。
なお、扱いの違いに関しては、私の評価を示すものではありません。AI-CONとLegal Forceは割と繋がりがあって知っているリーガルテック・ベンチャーなのと、そのため記載が長くなり過ぎたので両社の言及で力尽きたためです…笑
機会を改めて情報収集の上で改めて記事を書ければと思っています。
3.-(1) Holmes|株式会社Holems
(参考)公式サイト
株式会社Holmesの代表取締役笹原健太氏は、営業に関するnoteを書かれており、この辺りの感覚が凄く共感できそうです。「弁護士にはもっとマーケを」とかも良いですね!リーガルテックに関してセミナーを開催されるようなので是非参加したいと思います。
弁護士に依頼する側になって思うのが、『誰に依頼すればいいか分からない』こと。
逆に弁護士にはもっとマーケをして欲しい! https://t.co/DhRqCZ2rv5
— 笹原健太@CEO.Holmes (@kenta_holmes) January 6, 2019
3.-(2) CLOUD SIGN|弁護士ドットコム株式会社
Legal Forceに関して言及した契約書タイムバトルの主催者がCLOUD SIGNです。弁護士向けマーケティングもリーガルテックに含めると、リーガルテックの雄というべき弁護士ドットコムが提供するサービスです。
クラウド上での契約書締結サービスですが、弁護士ドットコムの契約締結をするとCOLUD SIGNを求められます。電子契約サービスはCLOUD SIGNを含めて複数社が登場していますが、弁護士ドットコムは「電子契約=クラウドサイン」と一般名詞化できるように全社を挙げて取り組む方針のようです。
(参考)CLOUD SIGN
司法修習生が想定読者なので、簡単に弁護士ドットコム株式会社について箇条書きで説明します。
- 弁護士ドットコムの運営母体は弁護士法人法律事務所オーセンス
- 代表は元榮 太一郎氏(弁護士・上場企業社長・参議院議員)
- べリーベスト法律事務所の代表弁護士酒井将は弁護士ドットコムの共同創業者
- 法律事務所オーセンスから分かれたのがべリーベスト法律事務所
弁護士ドットコムの弁護士向けサービスについて
弁護士ドットコムは元々は弁護士と相談者を繋げるポータルサイトを主たる事業としていました。弁護士向けのポータルサイトはいくつかありますが、Googleのアルゴリズムの変更等の影響もあり、なかなか難しい面もあるようです。
4. まとめ
今回はリーガルテック企業について、弁護士事務所の側に焦点を当てて解説しました。司法修習生からすると、リーガルテックやAI vs 弁護士は非常に関心が高いようです。
AIやリーガルテックで既存の弁護士業務が奪われる一方で、リーガルテックの将来性が気になるかもしれません。結論から言えば、リーガルテックの将来性は今後大きな成長が予想されると考えています。
色々な理由がありますが、リーガルテックの将来性が明るいのは「人手不足という日本の大きなトレンドに合致している」からです。
リーガルテック企業は正面からは認めませんが、おそらくリーガルテックの一番のポイントはコスト部門である法務部員の人件費削減だと思います。そもそも人手不足である中でコストも削減できるのであれば、企業としてはリーガルテックの導入を躊躇う理由はないように思われます。従って、日本の大きなトレンドを考える限りリーガルテックは今後大きな飛躍が見込まれると思っています。
リーガルテックは、見方によればAI技術によって弁護士の仕事を奪うと思われるかもしれません。しかし、現時点では弁護士によるリーガルテックは契約書チェック・作成業務に集中しているように感じます。
個人的にはAIが将来的に弁護士の仕事を奪うのは当然であり、皆さんが予想よりも相当早いのではないかと推察しています。とくに、契約書チェック・作成業務は相対的に付加価値が低くなるため、企業法務を志向するなら「契約書関連業務以外にどう付加価値を出すか」をしっかり考える必要があると思います。
AIと弁護士の仕事や弁護士業務における付加価値は改めて考察したいテーマです。