若手弁護士でそろそろ独立しようと考えている方や司法修習生で即独を考えている方は、弁護士として独立・開業することに不安を感じられるかもしれません。
弁護士の独立・開業は非常に大きなやりがいを伴いますが、様々なリスクや負担を負うことになります。
とくに、どうやって顧客開拓を行うかはあまり情報も出回っておらず、試行錯誤をするしかありません。
私たちは、2016年に設立された法律事務所ですが、様々な幸運が重なり2019年現在まで継続した事務所経営を行っています。
その中で様々な営業活動を行ってきました。本記事では、私たちが設立してから現在まで行ってきた営業活動について振り返りたいと思います。
必ずしも普遍化できる手法ではありませんが、弁護士として独立・開業を考えておられる方の参考になれば幸いです。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
Contents
1. 2016年4月頃:士業の挨拶周り
1.-(1) テレアポを取ってご挨拶
私たちは、2016年4月に本格的に活動を開始しましたが、その前後の期間を使って近隣士業に挨拶周りを行いました。
具体的には、司法書士、税理士、行政書士、社労士、弁護士に対し、新しく開業するので挨拶周りを行っていると伝えて、ご快諾いただいた先にはご挨拶に行きました。
反応は様々でしたが、面白がってお会いいただけることも少なくありませんでした。肌感覚としては4~5件に1件程度お会いいただけるイメージでしょうか。
それでも20事務所ぐらいはご挨拶周りをさせていただきました。
士業によってもテレアポの対応は異なり、司法書士・行政書士の先生は比較的お会いいただけるのに対し、税理士・会計士の先生はハードルが高い印象を受けました。
1.-(2) 士業の先生からのご紹介
正直、挨拶周りはダメ元の感覚で行っていました。当然ですが1~2度お会いした程度で仕事のご紹介を受けられるほど甘いものではありません。
もし、他士業の紹介経由で案件開拓を本気で行うのであれば、計画的に行動する必要があると思います。
私としては弁護士事務所の独立・開業にあたって様々な思惑で他士業の挨拶周りをしました。
- 士業業界の動向について情報収集
- 信頼できる専門家と繋がっておきたい
- あわよくば仕事に繋がると嬉しい
従って、必ずしも案件開拓だけを目的としたものではありませんでした。しかし、たまたま事務所が近かったり、趣味が一緒であったりして、継続的に関係を築かせていただくことができた事務所もありました。
このように何度かお会いしているうちに約3年の間にぽつぽつとお仕事に繋げることができました。
2. 2016年夏頃:弁護士ドットコムの登録
士業の挨拶周りからご紹介いただくこともありましたが即効性はありませんでした。そこで2016年春から夏頃にかけて弁護士ドットコムに登録しました。
結論から言えば弁護士ドットコムの登録は正解でした。弁護士ドットコムはいわゆるポータルサイトであり、現時点では不満も少なくありません。
しかし、弁護士が独立・開業当初で時間に余裕があるのであれば登録することは非常に有効な手段だと思います。
弁護士ドットコムに登録するようになってから、毎月継続的なお問合せをいただくようになり、安定した受任ができるようになりました。
忙しくなってくると問合せ対応が煩雑に感じるようになるかもしれませんが、独立・開業当初に事務所経営を安定させるためには有効な手段だと思われます。
3. 2016年秋頃:ホームページ経由での案件獲得
2016年秋頃からはホームページ経由でお問合せをいただくことが増えてきました。
ホームページ経由で案件獲得するための方法としては、大きく分けてSEO対策とリスティング広告があります。
(参考)リスティング広告とSEO対策 初心者でも5分で分かるメリット・デメリット
ホームページ開設から約半年間経過したことでSEO対策の効果が表れてきたこととリスティング広告も運用するようになり相乗的に効果が現れたと実感しています。
ホームページ経由での問い合わせ増加により、この辺りから一気に忙しさを感じるようになりました。
WEB集客については賛否両論あると思います。とくに司法修習生・若手弁護士にとってWEB集客は筋悪な事件やたちの悪いお客さんが多い悪いイメージがあるかもしれません。
この点に関しては下記記事も参考にしていただけますと幸いです。
4. 2017年:営業活動以外の忙しさ
4.-(1) 不倫慰謝料案件の増加
2017年は新卒採用した司法修習生が入所したことや大学生のインターン生の受け入れを開始したことなどから営業活動以外が忙しくなった時期です。
営業活動で特筆すべき点と言えば、不倫慰謝料の事案と立ち退き料請求の事案が増えたことからそれぞれ新しくサイトを作成したことです。
不倫慰謝料の案件は継続的に増加し続けている分野です。2018年度の取扱案件実績を集計したところ約70%程度が離婚・不倫関係の案件でした。
必ずしも不倫慰謝料の案件に特化・集中したいわけではありませんが、日常的・継続的に問合せが来ることや、弁護士不足で手一杯のため不倫慰謝料の案件が増加している状況です。
4.-(2) 弁護士として独立・開業することは合理的か?
私たちの設立から現在までの採用活動・人事管理の取組みは別途ブログ記事にできればと思いますが、事務所内の人数が増加するとにぎやかで楽しいことがある反面、混乱や事務作業も増えます。
弁護士として独立・開業を考えておられる方は、独立・開業すると弁護士業務以外の雑用も一手に引き受けることはよく注意された方が良いと思います。
よほど明確な経営方針がない限り、多くの場合はノキ弁形態や他事務所の共同経営に参加する方がメリットがあるように思われます。
なぜなら、弁護士として独立・開業すると様々な経費を負担する必要があります。単にお金で解決できる問題のみでなく、手配や維持管理に時間も取られます。
下記に掲げる固定費を支払って、事務作業を対応し、営業活動・弁護士業務も行うのは非常に大きな負担です。
- 事務所家賃
- 事務員・スタッフ人件費
- 備品・消耗品費
- パソコン・コピー機等のOA機器類
- 書籍代
例えば、私たちは完全歩合制で弁護士の採用をしていますが、個人受任も自由にできます(現在は個人受任の経費負担なし)。とくに事務所事件を一定数やらなければならないなどのノルマもありません。
個人受任の開拓・処理を中心にすれば上記固定費を負担することなく、万が一案件開拓に困れば事務所事件という保証もある非常に恵まれた環境です。
弁護士としていきなり独立・開業するよりは、このような形態の事務所で個人受任中心に業務を行う方が合理的な選択かもしれません。もしご興味がある方がおられましたら是非お問合せください。
若手弁護士は積極的に個人受任をするべきと考えます。仮に個人受任が禁止されている又は事務所事件扱いとされる場合でも同様です(個人受任が禁止されている場合は同期や先輩弁護士に紹介することになります。)。
若手弁護士が個人受任をすることにリスクも伴いますが、個人受任をすれば営業スキルと人脈という資産が得られます。スキルや人脈は転職をしても失われません。早期に動けばそれだけ大きな差もつくので、若手弁護士から積極的に個人受任を意識することをおすすめします。
5. 2018年:中小企業の顧問案件を開拓
2017年は計画をもって案件開拓を行うことはできていませんでしたが、2017年において事務所経営を見直して中長期的な案件開拓に取り組むことにしました。
具体的には以下のような目標を掲げております。
- 2018年 顧問案件の開拓(目標:顧問先50社獲得)
- 2019年 交通事故案件の開拓(目標:交通事故分野の売上1億円達成)
2018年は当初顧問先10社程度でしたが、2018年中に約30社の顧問先を開拓することができました。顧問契約の解約・終了などもあったため、目標の顧問先50社は達成できませんでした。
しかし、約1年間で新規顧問契約30社を開拓できたことには手応えを感じることができました。
具体的な顧問先開拓のための取組みについては以下の記事で詳しく説明しておりますのでご覧ください。
(参考)【失敗談と成功例】顧問先を年間約30社を新規獲得した営業手法を公開
6. 営業活動に関連して良くある質問
私たちが2016年に独立・開業してから、現在に至るまでの営業活動の取組みをざっと説明しました。文字数の関係もあって詳しくは説明できていませんが、ご興味があればTwitterで質問箱も設けておりますのでご質問ください。
(参考)Twitterの質問箱
最後に私たちの営業活動に関連して良くご質問いただく点に回答します。
6.-(1) 一般民事案件と企業法務案件について
私が四大法律事務所出身というバックボーンを持つため、弁護士として独立・開業した後に一般民事案件を取り扱っていることについてご質問を受けることがあります。
この点に関して、私は元々独立を前提と考えており、当初は四大法律事務所→一般民事系事務所→独立というキャリアプランを考えておりました。
また、事務所の理念として日本一の法律事務所になることを掲げており、取扱案件も企業法務・一般民事・刑事事件まで総合的に取扱うことを独立当初から現在まで一貫して志向しています。
従って、一般民事案件を取り扱うことに対して抵抗感などはとくにありません。
他方で、現在は一般民事案件の取扱いが多いのは、以下のような理由によります。
- 一般民事案件で(むしろ不倫慰謝料案件だけでも)十分な売上が確保できる
- 慢性的な弁護士不足のため新規案件開拓に乗り出せない
- 一般民事案件の方がWEB集客による案件開拓が容易
私個人としては、もう少し企業法務案件の営業活動に力を入れて行きたいと考えています。具体的なアイディアもあるのですが、前提として弁護士数の増加が必須です。弁護士の採用活動・人事管理は現在仕組みを構築しており、この点が上手く回れば更なるチャレンジをしたいと考えています。
6.-(2) 前職事務所からの案件引継ぎ
また、前職時代のクライアントを引き継いだかと質問を受けることがありますが全くありません!笑
四大法律事務所のクライアントは、四大法律事務所のネームバリュー又はパートナー弁護士への信頼から依頼をしています。
従って、四大法律事務所を早期段階で退職した弁護士が案件を持っていくことはほぼ不可能ではないかと思います。
他方で、私は元々独立志向であり、また森・濱田松本法律事務所は制度上個人受任可であったため、在職中からコツコツと営業活動をしていました。
そのため、個人受任していた顧問先等は独立時に数社ではあるものの確保していました。もっとも、これは前職時代のクライアントを持って行ったという話とは全く異なります。
6.-(3) (参考)独立準備に向けて
四大法律事務所に所属しながら個人受任をしていたと言うとどのような営業活動を行っていたか気になるかもしれません。しかし、独立準備のために行っていた営業活動はごくごく一般的なものです。
- 弁護士会主催の法律相談に参加する
- 国選の刑事事件を受任する
- 名刺交換会に参加して人脈を広げる
これらの営業活動は、独立するための必要十分な案件をもたらすものではありませんでした。また、独立して営業活動が軌道に乗ってから積極的に行うことを辞めています。
しかし、弁護士として独立・開業するにあたって何となく案件を受任するとはどういうことか、最悪の場合に法律相談会や国選弁護でどの程度売上が立つのかを知っておくことは心理的に大きな安心感をもたらすと思います。
7. まとめ
私たちが2016年に開業してから2018年一杯頃までの営業活動について簡単に振り返りました。
弁護士として独立・開業することはやりがいも多いですが、様々なリスクや負担も伴います。さらっと営業活動の取組みを説明しましたが、たまたま幸運に恵まれただけとも言えます。
若手弁護士で独立を考えている方や司法修習生で即独を検討している方は少しでも参考になる点がありましたら幸いです。